新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大がとまらない。中国では28日時点で感染者数は約6000人、死者は130人超にまで増えた。感染力は当初想定よりも高く、2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)と同程度という専門家もいる。毎年のインフルエンザと同じ対策を徹底することが重要だ。
新型ウイルスについて長崎大学の安田二朗教授は、新型コロナウイルスの感染力を「中東呼吸器症候群(MERS)よりも高く、2003年に流行したSARSと同程度」とみる。
感染力の目安の一つとなるのが、1人の患者から何人の患者に病気を感染させるかという「基本再生産数」と呼ぶ数値だ。世界保健機関(WHO)は23日の時点で暫定的に1.4~2.5と見積もった。英インペリアル・カレッジ・ロンドンのチームは平均2.6とするほか、英ランカスター大などのチームは3超とするなど、計算方法によって様々な見積もりがされている。
同じコロナウイルスによるSARSと、日本人に身近なインフルエンザと比較してみてみよう。
国立感染症研究所が03年にまとめた「SARSの疫学に関する統一見解文書」によれば、SARSのこの数値は2~4とされ、おおむね今回の新型肺炎に近い数値だ。毎年冬季に流行するインフルエンザについては、大阪大学の資料によればおよそ2とされる。
基本再生産数をみると、SARSと新型は同じくらいだ。新型肺炎の感染者数は既に約6000人にまで上り、このままで行くとSARSの最終的な確定感染者数の約8000人を上回る勢いだ。
SARSでは、ウイルスが多く見つかる場所が気管の奥や肺だった。このような情報が新型ウイルスではまだ十分ではない。もし、口や鼻に近い場所で増えていれば、感染の拡大と関係している可能性がある。
また、03年当時に比べて中国国内の人の移動が活発になっており、より感染が広がりやすい環境になっている可能性もある。
感染の封じ込めは簡単ではない。例えばSARSは02年11月中旬に中国広東省で感染が見つかり、03年2月以降にカナダ、ベトナム、シンガポールなどでも自国内の流行が発生した。中国国内の状況確認などが遅れ、WHOが世界的な警報を発したのが03年の3月12日だった。
その後、各国が患者の隔離や接触者の追跡などを徹底。新たな感染者がでないようにしたことで、収束に向かった。WHOが人から人への感染の連鎖が終わったことを確認して終息を宣言したのは7月5日だ。今回の新型肺炎に対する中国やWHOの対応は、SARSの時に比べて格段に早いといえる。
感染症のリスクを比較する上で致死率も大きな要素となる。SARSは約10%、MERSは約34%だった。今のところ新型肺炎は2~3%程度と低い。
インフルエンザについては、毎年の季節性のものの致死率は国内では0.01%にもならない年もある。だが、09年に猛威をふるった新型インフルエンザは日本では約0.2%だった。この時の致死率は国によって大きく異なり、例えばカナダでは約1.3%に達した。
感染症そのものの特徴だけでなく、院内感染の有無などの流行形態や各国の医療態勢の違いによってもリスクは変化する。現状では新型肺炎は2~3%の致死率だが、今後の各国の報告を注視する必要がある。
感染の拡大に伴って、ウイルスの変異により感染力や重症度などが変化すると心配する声も上がる。ただ、コロナウイルスはインフルエンザウイルスほど頻繁には変異しない。ウイルスの変異そのものはランダムに起こり、新型肺炎の感染や病状に関わる変化が起こる可能性は小さいといえる。
一方、変異は人や動物の体内でウイルスが増殖する際に起こるため、感染が広がるほど変異の機会も増える。数十万人以上にウイルスが感染すると病状に関係する変異が起きうるとされ、変異ウイルスが生じていないかどうかの調査は重要だ。
28日には国内で初となる人から人への感染が発生した。東京農工大学の水谷哲也教授は「今後も国内で人から人への感染は複数例起こりうる」とみる。
今回のウイルスは爆発的に大勢の人へ感染する空気感染ではなく、つばなどの飛沫によって感染するタイプとみられている。専門家は現時点でウイルスの性質の認識を変える必要はないという。「神経質にならず、通常のインフルエンザの対策にあたる食事前の手洗いやマスクの着用などを意識してほしい」(水谷教授)
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2020-01-29 07:28:15Z
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