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スリランカ連続テロ 謎の組織「National Thowheeth Jama'ath」の正体(黒井文太郎) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

タウヒード・ジャマアトとは何か?

 スリランカの連続テロの犯行グループとして名前が挙がっている「National Thowheeth Jama'ath」(NTJ)。その正体がいまだ謎です。

 まず組織名ですが、Nationalは英語で、日本語にするとこうした政治組織の場合は「民族」あるいは「国民」「国家」と訳されます。少数宗派の組織ですから、「国家」は違いますね。「民族」も「国民」もあまりしっくり来ませんが、あえて選べば「国民」でしょうか。

 Thowheethは、彼ら自身のSNSなどを見るとThawheedと表記されています。イスラム世界でよく使われる「タウヒード」のことです。タウヒードは「神は唯一であることを信じる」ことを意味する用語で、イスラム組織ではよく使われる言葉です。メディアや研究者によっては「一神教」と意訳しているケースもありますが、それもしっくり来ないので、そのまま「タウヒード」でいいでしょう。

 Jama'athはJamaat、jamath、jamatなどと表記されることもありますが、「集団・組織体」を意味します。組織名に使われる場合、日本語訳では「組織」「機構」「集団」「団」「協会」などとなることが多いです。ここで仮に「組織」を採用すると、National Thowheeth Jama'athは「国民タウヒード組織」といったところになるでしょうか。ただし、まだ日本語訳が定着していないので、本稿では音読みカタカナ表記で「ナショナル・タウヒード・ジャマアト」とします。

フェイスブックやツイッターも開設

 ナショナル・タウヒード・ジャマアトは、地元スリランカのメディアでも、ほとんど認知されていません。これまで、他のイスラム組織と比べても、ほとんど目立つ活動をしていませんし、組織体としてどこまで実態があるのかもわかりません。おそらく相当に規模の小さなグループでしょう。2018年12月の仏像破壊に関与していた疑いがありますが、それもはっきりとしたことは不明です。

 ただ、フェイスブックやツイッターまであるので、いちおう組織としてはスリランカ国内に実在します。フェイスブックのアカウント開設は2014年、ツイッターは2012年ですので、おそらく結成も2012年ではないかと思われます。SNSでは堂々と、住所、電話番号、メールアドレス、銀行口座まで公開しています。それだけ見ると、秘密のテロ組織には見えません。SNSでの投稿も、慈善活動に関するものが多いです。なお、SNSに表記されている住所は東部の海岸の町・カッタンクディとなっています。

現地では非常に多いタウヒード・ジャマアトという組織名

 スリランカでは他に「スリランカ・タウヒード・ジャマアト」(SLTJ)」、「セイロン・タウヒード・ジャマアト」(CTJ)、「全セイロン・タウヒード・ジャマアト」(ACTJ)など、似たような名前のイスラム組織が多くあります。今回のテロ容疑組織であるNTJは、SLTJからの分派という説もありますが、はっきりしたことはわかりません。SLTJの創設は2014年で、NTJの創設はおそらく2012年ですから、NTJが分派ということではなさそうです。ただし、現在のNTJの中心メンバーたちが、元SLTJという可能性までは否定できません。なお、SLTJは今回のテロについては、SNSに非難声明を投稿しています。

関係が疑われた2組織

 SLTJの本拠地もやはりカッタンクディです。2014年以来、仏教徒過激派と激しく対立していました。仏教徒過激派との抗争が激しくなった2016年には、アブドル・ラジック書記長が逮捕されています。その後もメンバーがやはり仏像破壊などに関与していますが、これまで人間を対象としたテロの記録はありません。

 ちなみに、インド南部のタミル・ナードゥ州を本拠とする「タミル・ナードゥ・タウヒード・ジャマアト」(TNTJ)というイスラム組織は、SLTJを自分たちのスリランカ支部だとしています。そのため、TNTJは今回のテロ容疑組織であるNTJとも関係しているとの現地報道がありましたが、TNTJは否定しています。

事前に情報がわかっていた!

 今回、正体不明のイスラム組織・NTJが容疑組織に浮上したのは、スリランカ当局が外国情報機関から事前にテロ警戒情報を受け取っていて、そこにNTJが犯行グループと明記されていたからです。犯行グループのリーダーの名前は、モハメドカッセム・モハメドザフランとのことでした。今回のテロで名前が判明した実行犯の1人にザフラン・ハシミという人物がいますが、両者が同一人物の可能性もあります。

 現時点で判明している情報では、自爆テロ実行犯は全員、スリランカ国民とのことです。ただし、スリランカ当局は、かなり大掛かりな外国組織のサポートがあったものと見ています。

スリランカ人のIS志願兵は32人以上

 ここからは、筆者の推測になります。

 今回、実行した組織はおそらくNTJでしょう。しかし、ほとんど活動実態のない弱小組織だと思うのですが、それにしては今回のテロはきわめて大規模です。しかも、スリランカ国内のイスラム組織であれば、仏教徒を狙うのが自然です。そういう点を考えると、今回のテロは、ISかアルカイダの影響が強く感じられます。ISかアルカイダであれば、世界中どこでも、キリスト教徒が攻撃対象になります。

 そこで気になるのは、スリランカ人の元IS戦闘員の動向です。スリランカから、少なくとも32人の義勇兵がシリアに渡り、ISに参加したとみられます。そうしたネットワークから、例えばスリランカ人の元IS戦闘員が関与している可能性も充分にあると思います。

世界に散ったジハード(テロ)志願者

 ISは現在、イラクやシリアを逃れた外国人義勇兵たちが、世界中に散っている状態です。そうした元戦闘員たちの中には、自分のいる場所でジハード(テロ)を行いたいと考える人も少なくないでしょう。IS自身が正式に外国人戦闘員に本国でのジハード(テロ)を呼び掛けています。スリランカ人であれば、おそらく多くはスリランカに帰国したか、あるいはインドなど周辺国に潜伏している可能性が高いでしょう。現時点でテロ容疑者は全員スリランカ人ということですが、もしかしたら他にも、スリランカ人義勇兵と親しくなった他の国籍の元IS戦闘員が合流している可能性もあります。

敵対する仏教徒でなく、キリスト教徒を狙った理由

 そして、ISに参加するような人間であれば、もともと本国スリランカでも急進的なイスラム組織の人脈があるでしょう。そんな人物がもしもいたら、本国の仲間を対キリスト教徒テロに誘うこともあるでしょう。もちろんISとは直接関係のないISシンパたちが自発的にテロを考えた可能性も否定できませんが、これだけの規模の作戦は、やはりIS人脈の関与を強く疑わせます。スリランカ当局も、実行組織は国内組織としても、国際的なテロ組織の支援があったと見ているようです。ただし、今回の連続テロは爆弾テロなので、自爆要員が揃い、準備の期間があれば、必要な経費は爆発物の入手くらいです。それほど多額の資金は必要としません。

端緒情報を掴んだのはインド情報機関か

 また、今回のテロの事前の警戒情報は、どうやらインド情報機関から提供された可能性が高いようです。インド情報機関からすれば、スリランカ国内のイスラム組織の動向はそれほど重要でないので、おそらくインド国内のイスラム過激派の動きを追うなかで、入手した情報ではないかと推測されます。インドにももちろん元IS戦闘員は帰国しているでしょうし、それに加えて、インドならアルカイダの人脈も入り込んでいます。世界のイスラム社会全体では、もはやアルカイダの影響力は激減していますが、可能性がないわけではありません。

 ただ、まだ断定できないのは、現時点までNTJを含めてどこからも犯行声明が出ていないからです。ISもアルカイダも、自らの人脈がこれを実行したのなら、大々的に宣伝に使うはずです。いずれ効果的なタイミングを計って、どこかが犯行声明を出すのではないかと思われます。

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https://news.yahoo.co.jp/byline/kuroibuntaro/20190423-00123380/

2019-04-23 00:14:00Z
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